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あなたの疲労レベルは何段階?元自衛隊メンタル教官・下園壮太さんに聞く、働く人のメンタルコントロール術

2022年3月30日

新型コロナウイルスの影響で、終わりの見えないストレスにさらされている私たち。東京センチュリーNEWSでは、2022年が明けて間もない中で感染が再拡大し、在宅勤務が再び増えていることから、社員の疲労も蓄積しているのではと考え、心の健康のためにオンラインによるメンタルヘルスケア講座を開催しました。講師にお招きしたのは、元自衛隊のメンタル教官・下園壮太さん。「最近、思うようにパフォーマンスが出せない......」といった悩みも解決するような、気づきに満ちたウェビナーの内容をお届けします。

仕事のスキルが高くても、ある日ポキンと心が折れる人の共通点

元自衛隊のメンタル教官・下園壮太さん

          

─私たちは働くなかで、日々さまざまなストレスを感じています。そうしたストレスが心身にどのような影響を与えているのか、まずはそのメカニズムを教えていただけますか?

同じようにストレスを感じている状況でも、仕事のスキルの高さによって2つの異なる「心の折れ方」があります。まず1つ目は、スキルが未熟なAさん。この人の場合、仕事のパフォーマンスが落ちるにつれてストレスが増していきます。有効な対策は、スキルを鍛えること。スキルアップすればおのずと能率も上がり、ストレスが減っていくはずです。

次にスキルが高いBさんです。この人の場合、中程度のストレスであれば、パフォーマンスはむしろ上がるのです。時には最高の成果を上げることだってある。ところがストレス値がある一定ラインを超えると、パフォーマンスはストンと地に落ちてしまいます。直前まで元気に見えていたのに、突然エネルギーが切れてしまうんですね。多くの自衛隊員やビジネスパーソンを見てきた経験から、このケースは非常に多いと感じています。

2つの「折れ方」のタイプ

          

ではBさんは、なぜこうなってしまったのか? 一番の原因は「疲労の蓄積」です。疲労といっても、スポーツの後に感じるような身体的な疲れとは異なる、精神的な疲労を指します。じわじわとたまっていく、自覚しにくいこの疲労を「ステルス疲労」と呼んでいますが、うつ病にかかる人の8〜9割が、これが原因だと私は見ています。

知らないうちにじわじわとたまる「心の疲労」と、そのメカニズム

─いつの間にかたまるステルス疲労に私たちはどうすれば気づくことができますか?

自分の疲労度合いをチェックできるようになるために、まずは疲労状態にはいくつかの段階があることを理解しましょう。ここでは疲労を3つのレベルに分け、「感情(主にネガティブ感情)と理性のバランス」と共に、各レベルの特徴をご説明していきます。

◆1倍モード:正常な疲労

感情と理性のバランス → 感情20:理性80
・モチベーションが高く、日々の仕事に集中して臨める状態。
・理性的な判断ができ、冷静に問題解決に取り組める。思考の切り替えもパッとできる。
・ショックな出来事が起こっても、自然と立ち直れる。トラブルを成長の一環として捉えられる。

◆2倍モード:疲労が蓄積している状態

感情と理性のバランス → 感情50:理性50
・1倍モードよりも回復するまでに2倍の時間がかかる。
・常に緊張状態にあり、目の前の仕事をこなすのに精一杯。小さなミスや記憶違いが増える。
・表面上は元気を装っているが、内心不機嫌でイライラしている。「やる気が出ない」「億劫だ」「面倒くさい」という言葉が出るように。
・不眠や食欲不振など、身体症状が出始める(多くの場合、身体的不調が先に現れる)。

◆3倍モード:ガス欠状態

感情と理性のバランス → 感情80:理性20
・1倍モードよりも回復するまでに3倍の時間がかかる。
・思考停止状態になって、仕事にまったく集中できない。
・自信の低下、自責感、対人恐怖が増し、別人のような「うつ的性格」になる。他人からのささいな指摘にひどく落ち込んでしまうなど、あらゆることをネガティブに捉えるように。
・不眠や食欲不振の他、肩こり・頭痛・涙が出るなど、さまざまな身体症状が出る。
・3倍モードが深刻化すると、「いなくなりたい」「死にたい」という思いが出るようになる。

疲労の3段階

          

コロナ禍は、「うつ的状態」を引き起こす要素があふれている

─なるほど......。ステルス疲労の原因はストレスだと伺いましたが、具体的にはどんなストレスが挙げられますか?

じわじわとたまる心の疲労は、「感情の消耗」によって起こります。それを引き起こす要因の一つが「情報化社会」。私たちはメディアやSNS、日々の仕事で触れる大量の情報によって、知らないうちに感情をすり減らしています。

親族の死や病気、失業などの「環境の変化」も、感情を大きく消耗させます。意外に思うかもしれませんが、結婚や昇進といったポジティブな変化も、実はストレスに含まれるんです。新しい状況に慣れるためにエネルギーを使うという意味で、あらゆる変化は人間にとってストレスになるんですね。

ライフイベントのストレス

          

こうした環境の変化が一度に襲ってきたのが、新型コロナウイルスの感染拡大です。始まった当初から私は、「これは大変な状況になったぞ......」と危惧していました。コロナ禍では、私たちは生存に直結する根源的な不安にさらされただけでなく、人と会って話をしたり、おいしいものを食べに出かけたりといった暮らしの自由も制限され、孤立と我慢を強いられました。さらに、「感染するかもしれない・させるかもしれない」という対人不安にも、日々悩まされています。

そんな生活が2年ほども続き、ヘトヘトになっているのが現在の私たちなのだと思います。今、日本人の疲労レベルの平均値は、2倍モードの下あたりではないかと感じています。つまり、国民の約半数が大きな疲労を抱えている「イライラ社会」と言えますね。

─多くのビジネスパーソンが「リモートワークへの移行」といった働く環境の変化も経験しました。

リモートワークには、嫌な人と会わないで済む、通勤から解放されるなど良い面がある一方で、気持ちの切り替えが難しく、オーバーワークになりやすいという負の側面もあります。さらに、メンバーとのコミュニケーション量が減ったことから、「以前より関係を築くのが難しくなった」と感じている方も多いのではないでしょうか。

対面で会えば雑談が増え、相手の表情や言葉のニュアンスから、多くの内面情報を得ることができます。ところがリモートワーク下では、相手の考えが読めないために何気ない発言を変に勘ぐってしまうなどのコミュニケーショントラブルも起こりがちです。「チームの心理的安全性」という面では、必ずしもメリットばかりとは言えません。

リモートワークによる変化

         

「睡眠」こそ最高の薬。疲労を感じたら、まずは休養を!

─では、心の疲れから回復するために、私たちは何を心がけたらよいのでしょうか?

「今、自分の疲労はどの段階だろう?」と、セルフチェックを習慣にすることが第一歩です。そして疲れを自覚したら、「休養」を第一に考えると同時に、「ストレス要因から離れる」「人に相談する」ことも検討してみてください。一つずつ見ていきましょう。

対処法1:「おうち入院」で休養をとる

よく「意欲がどうしてもわきません。身体や根性を鍛え直さなくては」と言う人がいますが、これは誤った考えです。そういった場合に、その人に何より必要なのは、「休養」です。休養には「睡眠」と「ストレス解消法」の2つがあり、私はこれらをセットにした「おうち入院」をおすすめしています。

おうち入院では、9時間を目安に、ぜひたっぷりと睡眠を取るよう心がけてください。実は大半の日本人は、自覚なく慢性的な睡眠不足に陥っています。ステルス疲労に対する最高の薬は「睡眠」。これは、強調してもしすぎることはありません。

次に「ストレス解消法」です。一般的にストレス解消というと、スポーツをする、旅行に行くなど「ハシャギ系」の趣味を思い浮かべる人が多いと思いますが、非常に疲れている時は逆効果にもなりかねません。代わりに家で映画を観る、将棋を打つなど、「癒し系」の趣味を試してみてください。癒し系趣味がないという方は、この機会に自分に合った趣味を開拓してみるのもいいですね。この「おうち入院」を数日行えば、疲労がかなり和らぐことを実感できるはずです。

ストレス解消法の種類

          

対処法2:ストレス要因から離れる

疲労の回復には、疲れの元となっている刺激からできるだけ離れる工夫も必要です。状況的に離れるのが難しい時は、「夜はそのことを一切考えない」など心理的な距離を取るよう心がけましょう。併せてSNSやテレビのワイドショーなど、不安感情をかき立てる情報からも距離を置くようにしてみてください。

多くの人が、幼いころから「しんどいことがあっても頑張って乗り越えよう」と教えられてきたように思います。でもそれだけが、果たして「人間の強さ」と言えるでしょうか? 時には「撤退する勇気」を持つことも必要です。心身の状態やスキルなど自分の限界をきちんと把握し、時には「一時撤退」の道を選ぶことも、ビジネスパーソンの大切なメンタルスキルだと私は思います。

対処法3:人に相談し、気持ちを吐き出す

信頼できる人に自分の状況を話すのもおすすめです。気持ちを吐き出すことで心が軽くなるだけでなく、知らないうちに身についてしまった「偏った思考・感じ方のクセ」に気づくことができるからです。疲れがたまるほど、世の中や自分を見る時のフィルターはゆがんでしまうもの。身近な相談相手に限らず、ぜひ精神科の受診も視野に入れてください。

「疲れていないかな?」メンバーの観察は、リーダーの大切な仕事

打ち合わせイメージ

          

─ありがとうございます。最後に、上司や管理職などマネジメントに携わる人へのアドバイスをお願いします。

まずお伝えしたいのは、1倍モードの部下には効果的だった「問題解決型アドバイス」は、2倍モード、3倍モードの状態にある疲労が濃い人にとっては逆効果になるということ。その助言が正論であるほど、スイッチが入らない自分に自己嫌悪を覚えてしまい、悪循環にはまってしまうからです。それは風邪で高熱を出している人に、「筋トレをせよ」と命じていることと同じなんです。

適切なアプローチをするためには、日ごろから一人ひとりの部下に対して、「この人は疲れていないかな?」と観察する姿勢が欠かせません。「みんなが1倍モードだとは限らない」という前提に立ち、疲れている部下がいたら、相手が心から安心できる環境をつくること。メンバーの状態を見極め、それぞれが無理なく力を発揮できる場を整えることも、リーダーの大切な仕事ではないでしょうか。また、上司として、管理職として、すべてを自分で解決しようとせず、時にはカウンセラーなど専門家の力を借りることも大切です。

下園 壮太(しもぞの・そうた)

心理カウンセラー、NPO法人メンタルレスキュー協会理事長。陸上自衛隊の心理幹部第一号として、長年にわたり、自衛隊の衛生隊員へのカウンセリングや心理幹部人材の育成に従事。2015年に自衛隊を退職。現在は豊富な現場経験をベースに、カウンセリングや講演活動を行っている。

※記事の内容、肩書などは掲載当時のものです

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