Sustainability

アビエーション・キャピタル・グループのダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DEI)への取り組み

2022年4月27日

東京センチュリー(TC)の一員である1989年創業のアビエーション・キャピタル・グループ(ACG)は、米大手の航空機リース会社です。特にナローボディ機(座席数100-200程度の単通路機体)のリースに注力しており、現在約45カ国において約95社のエアラインと取引を行っています。

ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DEI)の取組みにおいても、業界のパイオニア的存在となっているACG。今や企業の重要課題とも言えるこのテーマを、どのように推進してきたのかを、ACGの人事、IT、コミュニケーション部門のシニア・バイス・プレジデントを務めるエリザベス・スティーブンスさんと、ACGのエグゼクティブ・チェアパーソンであり、TCの専務執行役員でもある原真帆子さんに語っていただきました。

アメリカ、ACGにおけるDEI

――ACGにおけるDEIの現状を教えてください。

スティーブンス:世界各地に拠点を構え、さまざまな言語を話す社員が所属するACGは、多様性に富んだ会社で、DEIのためのオープンマインドな素地が既に整っています。各地で起きる多種多様な課題の解決のために、それぞれのメンバーが持つさまざまな経験や知識を持ちより、人々の意見に耳を傾け、できるだけ多くの視点を取り入れるようにしています。また、女性に男性と同等の機会が与えられることも大切です。航空業界は男性中心だったため、変えるには時間がかかると思いますが、私たちマネジメントサイドが意識的に取り組んでいくべき重要課題と考え、さまざまな施策を行っています。

原:ACGが拠点を置いているカリフォルニアは、さまざまな国出身の人々が集う極めて多様性の高い地域で、人種や民族、そしてセクシュアリティにおいても実に多様な人々が混在しています。つまり、DEIを尊重するための土台がカリフォルニアにはすでにあるのです。

――アメリカ国内の他社と比べて、ACGの取り組みはどう違っているのでしょうか?

スティーブンス:DEIの意識が世間に今ほど広まっていなかった7年ほど前、ACGは社内でさまざまなグループや委員会を立ち上げ、社員自身が問題を解決していけるような権限を与えてきました。他社であれば、マネジメントサイドが主導したかもしれませんが、ACGでは、性別やバックグラウンドの違うメンバーから構成された委員会をつくり、社員自身の自主性を尊重した取り組みを立ち上げ、実行してきました。

Employee Appreciation Day―シニア・マネジメントが社員に朝食を提供

Employee Appreciation Day―シニア・マネジメントが社員に朝食を提供

――ACGにおけるDEIの具体的な取り組み事例を教えてください。

スティーブンス:2021年、私たちは「ボランティア・タイムオフ」という制度をつくりました。これは、全ての社員が8時間を上限に有給休暇を取得し、自分の選んだ認定非営利チャリティ団体での活動ができるというものです。マッチング寄付プログラムも導入しました。これは社員自ら選んだチャリティへの寄付と同額を、TCのサポートのもとでACGからも寄付するというものです。

また、授業料返還プログラムという制度もあります。私たちはニッチな業界でビジネスを行っていますから、実務に即したプログラムを持つ大学は世界を見渡してもわずかしかありません。学ぶ意欲のある社員の学費を補助することで、成長を支援しています。

加えて、雇用時のオリエンテーションプログラムの一環として、全員がハラスメント防止トレーニングを受けることになっています。自信を持ち職務にあたれる環境があることが重要だと考えており、会議で自分の意見を述べ、人と違う視点であっても発言できるよう、また他のメンバーにとってもそのような環境がつくれるようにトレーニングを提供しています。
このように、ACGは社員の能力開発やトレーニングに重きを置いています。成長のためのツールを提供し、自信を持って日々の職務を遂行する手助けをしているのです。

委員会に社員を起用する際は、人事部として、シニアリーダーチームから出てきた候補者のリストの中から男性と女性、異なるバックグラウンドや年齢、部署が含まれるようメンバーを選定していますが、このやり方がとても功を奏しているように感じています。委員会が掲げる大きなゴールへ貢献すべく、今は小さなタスクを扱うためのサブグループも組成中です。誰かが委員を辞めた時には、自ら立候補して委員となる人もいて、能力のみならず意欲面でもバランスのとれた構成となっています。

          

          

――こういった取り組みにおいて、直面した課題や配慮されていることがあれば教えてください。

スティーブンス:私たちが非常に気を配っていることがあります。例えば、ある国の出身者ばかりが優遇されているというような訴えがあったとしましょう。その場合、絶対に避けなければいけないのが、ひとつのグループの発言だけを聞き、他の意見を聞かない、ということです。一つの側面だけ見るのではなく、一つひとつの意見に耳を傾け、誰もが現状を変えるアクションを起こせるようにしていかなければなりません。

原:ACGには本社以外にも世界各国に社員がいます。カリフォルニアで働く社員と同様に、海外拠点の社員もACGコミュニティの一員なのです。どのNPOや社会活動に寄付をするかを決める際も、全社横断的に意見を聞き、全員の声を反映できるように努めています。

人事がビジネスにもたらすポジティブな影響

――スティーブンスさんにお聞きします。2020年にACGに入社されましたが、ACGを選んだ理由をお聞かせいただけますか?

スティーブンス:最初の面接で驚いたのが、ACG社員の能力の高さです。プロフェッショナルとして極めて高いスキルやマインドをもちながら、フレンドリーで仕事に対して献身的だと感じました。私は、一人ひとりが自発的にものごとに取り組む組織に加わりたいと常々思っており、それをACGの組織・人の中に見ることができました。この組織の一員となり、貢献したい、この会社の社員の人生をよりよくしていきたいと感じたのです。

         

         

――人事の仕事の魅力や、やりがいを感じていることは何ですか?

スティーブンス:私は、人事のプロはビジネスのプロでなければいけないと思っています。ビジネスの課題や問題点を解決するのは人材ですから、課題を理解し、トレーディング部門であれ、マーケティング部門であれ、ファイナンス部門であれ、他部門と協働して解決策を見つけるのが私たちの仕事です。時にマネジメントサイドと社員との溝も生まれます。それを埋め、一緒になって問題解決に取り組んでいくのです。ACGの社員には、変化や異なる意見を認め合いひとつになれる能力があることを、日々非常に頼もしく感じています。

また、人事というのはサポートグループのようなものだとも考えています。人事が上からコントロールするのではなく、社員がやりたいことを人事部門が支えるのです。昨今、人事とビジネスの関連性はますます高まっており、人事は企業経営にポジティブな影響をもたらすことができると私は信じています。

――ACGにとってのDEIの意義を教えてください。DEIへの取り組みは企業文化にどのような変化をもたらしたのでしょうか。

スティーブンス:原さんがACGのエグゼクティブ・チェアパーソンであることが社内にとてもいい空気をもたらしています。女性がトップに就任することはACGでは初めてですが、社員は非常にポジティブに受け止めています。私自身も、かつて男性で占められていたシニアリーダーシップグループの一員となっています。女性も、より上のキャリアを目指し、自ら意見を持ち、会社に貢献したいと考えていますし、それが組織体制にも表れる、このような変化のうねりは確実に起こっているのです。

多様性に富む、ACGのシニア・マネジメント

多様性に富む、ACGのシニア・マネジメント

原:グローバルに事業を展開しているACGは、さまざまなバックグラウンドを持つ方々がパートナーです。それゆえ、性別や、文化的、民族的な差異に限らず、多様な視点からの意見も当然必要になってくるのです。私たちの事業はファイナンスの専門家だけで行っているのではありません。エンジニアや技術系人材、その他多くの専門分野のプロフェッショナルたちがACGには存在し、それぞれの見方、考え方を会社にもたらしてくれている。つまり、私たちはあらゆるタイプのキャリアを持つ人々を包括していく必要があるのです。

コロナ禍で変わりゆく働き方

――コロナ禍を経験し、社員の働き方や雇用にどのような変化がありましたか?

スティーブンス:あらゆることが変化しました。現在も変化し続けています。コロナ禍が始まった時点では、職場の3分の2がリモートワークに対応できない状況でした。そこでACGでは、迅速かつスムーズにリモートワークに移れるようにと、パソコンやモニター、キーボードといった機材を社員に準備しました。しばらくすると、家で働くことの心地よさに気づき、家でも仕事ができるとわかりました。いずれにしろ、しばらくオフィスに戻ることはできませんでしたが...。

コロナ禍の1年目、2020年に、ACGでは25人を中途採用しました。社員125人という規模の企業において、これは大きな変化でした。私が苦慮したのはこの入社した方々にいかにして会社に馴染んでもらい、ACGの企業文化を理解し身につけてもらえるのか、ということでした。そこで行ったのが月次オンラインミーティングです。新しく入った社員をみんなに紹介し、ゲームやクイズなどで一緒に盛り上がる機会を設けたのです。何か、みんなが楽しみにしてくれるものを、と思い企画しました。

コロナ禍の中、社員間のコミュニケーションをとるためにZoom上で各種イベントを企画 (ハロウィーンのパンプキンカービングイベント)

コロナ禍の中、社員間のコミュニケーションをとるためにZoom上で各種イベントを企画 (ハロウィーンのパンプキンカービングイベント)

一方で、採用面接をしながらわかってきたことのひとつが、完全な在宅勤務では、孤独に陥ってしまうということでした。人と人とのつながりが失われてしまうため、週5日リモートワークをする会社では働きたくない人が多い、ということが明らかになってきました。

――アメリカにおいて、「Great Resignation」と呼ばれる大量退職が起きていると言われていますが、要因は何だとお考えですか? また、ACGはこの事態にどう対処していますか?

スティーブンス:コロナ禍が起こる前は、ほとんどの会社で社員は週5日出勤していました。コロナ禍になって、私たちはウイルスへの恐怖と高い不確実性の中で、仕事とプライベートをどのように両立させるべきかわからなくなってしまいました。学校に行けず家にいる子供の教育やペットの世話など、他にもさまざまな問題に直面するようになったのです。時が経つにつれ、そういったことへの対処法がわかってくると、今度はその生活を快適と感じるようになった人が多いのだと思います。

その結果、仕事と生活に求める条件が多様化し、個々人の条件に合う職場を求め、転職することを選ぶ人が増加しているのです。例えば、生活コストの安さや、家族や友人が周りにいるからという理由で別の州に住んで完全リモートで仕事をしたい人もいます。ただ、他社の状況も見てみると、「隣の芝生は青い」と思って転職した人が、数ヶ月後には「青いと思っていたけどそうでもなかった」と言い出し、元の仕事に戻りたいと思うようになるケースもあると聞いています。人々が求めているのは最適なワーク・ライフ・バランスであり、それが具体的に何を指すのかは人それぞれです。年老いた両親と過ごす時間をもっと作りたい人もいれば、子供のお迎え時間に間に合うように仕事を終え、宿題を手伝いたい人も、また、趣味やスポーツに没頭したい人もいます。

約2年間の在宅勤務を終え、出社が始まった週のWelcome Backイベント

約2年間の在宅勤務を終え、出社が始まった週のWelcome Backイベント

ACGは、ワーク・ライフ・バランスがとれるよう、フレキシブルに活用できるハイブリッドワークモデルを目指しています。その中で、社員それぞれが自分のニーズに合う働き方を見つけてほしいのです。同時に、社員にとっても会社のビジネスにとっても必要不可欠な、つながる機会を設けていきます。このような体制であれば、ほとんどの社員のニーズに応えられるのではと考えています。在宅なのかリモートなのかという働き方の形式に関わらず、つながりを作ることが重要なのであり、つながることでより組織として強くなれると信じています。

――原さんにお伺いします。アメリカで勤務されていて目にした、印象に残っているDEIの事例を教えてください。

原:アメリカという国は人種のるつぼであり、特にカリフォルニアではそれが人々の誇り、プライドにもなっています。年齢や人種、ジェンダーによる差別を禁止する厳しい法律もあります。これまで話してきたDEIの取り組みでは言及していませんが、ACGにはLGBTQ+コミュニティに属するメンバーもいます。人種の違いと同様に、分け隔てなく共に仕事をし、そのことがキャリア機会における障壁になることもありません。日本でも障壁を取り払う努力はしていますが、残念ながらまだこのような状況になるには課題は多いと思います。

企業戦略における人事の重要性

         

         

――ACGの取組みのうち、特に TCにも生かせるものはありますでしょうか。

原:ACGとTCの人事システムの大きな違いは人材の採用方法です。ACGは職種に特化した採用を行っています。一方のTCは、日本のシステム全体にも共通するのですが、多くは新卒で採用し、会社が所属を決め、配置します。ただ、TCのビジネスもより複雑になってきており、雇用方針は多様化しています。私としても、職種に特化した雇用へと変化していくことが非常に重要だと考えています。新卒採用はもちろんですが、近年強化している中途採用においても同様です。

先ほどスティーブンスさんが触れたように、ACGの人事はビジネスと密接に統合されています。スティーブンスさんは、企業の重要な判断を行うリーダーシップグループのメンバーであり、彼女の人事責任者としての視点は企業戦略を練る際に欠かせないものとなっています。この点はTCにも生かせる点だと思います。経営戦略において人事戦略をより結び付けていくことは当社に限らず多くの日本企業の課題だと考えています。

ACGの人事部門のドアは常に開かれていて、社員は何かあればいつでも人事部門を訪ねてくることができるのもよいですね。ちょっとした雑談や改善のためのアイデアも歓迎しています。これによって私たちマネジメントサイドは会社で何が起こっているのかを知ることができ、より適切な採用にもつながっていくのです。

――ACGとTCがこれから注力していく分野はどのようなものでしょうか?どのような企業、グループでありたいか、目指す姿を教えてください。

スティーブンス:シンガポールやアイルランドなど、世界中のオフィスにまたがる形での企業文化を築き続けることです。社員同士がつながりを感じられるようなさまざまなイベントを催していくと同時に、委員会やDEIへの取り組みを引き続き支援していきます。ACGでは、マネジメントチーム側がすべての答えを導き出したものを社員に押し付けようとはせず、社員からの忌憚のないフィードバックを得ることで、社員の真のニーズを知り、より現実に即した組織に変革していく好循環ができています。メンバー全員でACGをよりよい企業にしていきたいと考えています。

原:これは、業界全体に言えることでもあるのですが、ACGにはもっと多くの女性エグゼクティブが必要だと考えています。航空機業界は今も男性中心の世界です。シニアマネジメントレベルにいるスティーブンスさんをはじめ、他にも女性管理職がいることは好ましいことですが、これをさらに推し進める必要があります。女性の地位を引き上げるためにできることはまだたくさんあり、できることはすべて実行するべきだと考えています。そうすることで、真の意味で企業が女性の能力の恩恵を受けることができるようになるはずです。

Aviation Capital Group LLC

アビエーション・キャピタル・グループは1989年創業の米大手航空機リース会社。オペレーティング・リースやアセットマネジメントといった航空機関連の幅広いサービスを提供しており、その確かな運用で評価を得ている。ナローボディ機(単通路機)を主力としたリースを、世界約45カ国の約95のエアラインに提供。その高度な専門知識と競争力に定評がある。

原 真帆子(はら・まほこ)

エグゼクティブ・チェアパーソン

2011年、東京センチュリー入社。2019年、東京センチュリーによるACGの完全子会社化後、現職。社内外における女性の活躍や地位向上にも取り組んでおり、2019年4月には、航空業界の非営利団体であるAdvancing Woman in Aviation Roundtable(AWAR)にて、日本における第一回「Trailblazer(先駆者)賞」を受賞。

エリザベス・スティーブンス

シニア・バイス・プレジデント/人事、IT、コミュニケーション部門

チャパラルマネジメントサービス社 / ウェストサイドビルディングマテリアル社の人事部門バイス・プレジデントを経て、2020年ACG入社。人事のバックグラウンドに加えて、オペレーション、セールス、カスタマーサービス分野でキーとなる役職を経験。医療分野でのビジネスオーナーとしての経験も有する。

※記事の内容、肩書などは掲載当時のものです

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