Sustainability

「多様性」を組織の力にするために必要なこととは?JobRainbow社CEOの星賢人さんに聞いてみた

2021年10月27日

ダイバーシティ&インクルージョンの推進に今、社を挙げて取り組んでいる東京センチュリー。社員一人ひとりが多様性や寛容性への意識をさらに高め、それを具体的な行動につなげていくために、このたびグループ社員を対象としたダイバーシティ&インクルージョン公開講座をオンラインにて開催。
講師として、ダイバーシティに特化したリクルーティングプラットフォーム「JobRainbow」を運営する株式会社JobRainbowのCEO星賢人さんをお招きし、お話を伺いました。200名近い社員が参加したウェビナーの一部を記事でもお届けします。

大切なのは失敗を恐れず、価値観をアップデートし続ける姿勢

株式会社JobRainbowのCEO星賢人さん

          

─ダイバーシティ&インクルージョンを考える上で、日本企業の現状を星さんはどのように見られていますか?

例えばアメリカの多くの企業には、ダイバーシティ&インクルージョン専門の役員が配置されています。これはつまり、ダイバーシティ推進が企業の競争力の源泉になることを企業のトップ層が理解し、経営戦略としてダイバーシティ&インクルージョンを推し進める方針を明確に打ち出しているということ。

一方、多くの日本企業の場合、ダイバーシティ&インクルージョンがまだCSRやボランティア的な位置づけに留まっており、経営戦略というところまで落とし込まれていないな、という印象を受けます。「企業経営において、ダイバーシティ推進が必要不可欠なものである」という認識が多くの企業にまだ浸透していないのです。

─日本企業に一番足りていないのはどのような部分でしょうか?

日本企業のダイバーシティ&インクルージョンの推進に一番不足しているもの、それはやはり、トップ層のコミットメントだと思います。日本企業は構造的に、トップダウン型の会社がまだまだ多いのが現状です。そのような企業では経営陣が率先して「ダイバーシティ&インクルージョンに取り組みます」と旗振り役にならないと、なかなか会社全体への浸透は難しい。私自身、いろいろな会社の実情を見てきたなかでの正直な実感です。

自分の会社がダイバーシティ&インクルージョンの推進に取り組むにあたって、経営者や役員の方々がよく心配されるのは、時間のかかる取り組みだということ。結果が出るまで時間が必要なため、その過程で「中身が伴っていないのでは? 口先だけじゃないか?」と周囲から批判される不安もあるようです。

しかし、世界的にダイバーシティ&インクルージョンの推進が進んでいると評価される企業は、同様の批判を受けながら、時にはそれを真摯に受け止め、試行錯誤を続けるなかで変化を遂げていったのです。大事なのは失敗を恐れるのではなく、失敗もまた成長の糧として受け止めて、価値観をアップデートし続ける姿勢。トップ層がそういった姿勢を持つことが、企業がダイバーシティ&インクルージョンの推進に取り組んでいく上で、非常に重要だと私は考えています。

無意識の偏見「アンコンシャス・バイアス」とは?

─その他、ダイバーシティ&インクルージョンの推進を妨げる要因としてどのようなものが考えられるでしょうか?

「マイクロアグレッション」というのが大きな課題だと考えています。直訳すると小さな攻撃。アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み・偏見)に基づいて行われる無意識的な攻撃のことです。

例えば、ある特定のバックグラウンドを持つ人を「あなたは◯◯人なのに、良い学校を出ててすごいね」と褒めたとします。それを言った人は褒め言葉のつもりでも、言葉の裏側には「◯◯人は頭が良くない、学校に行っていない」というような偏見が隠されているわけです。こうした言葉は意図的ではないけれども、相手を傷つけてしまう側面がある。特にマイノリティに属する人々は、こうしたマイクロアグレッションを受けるケースが日常的にありますが、組織のなかでマイクロアグレッションが頻発すると、メンバーの心理的安全性もどんどん下がってしまいます。

無意識の偏見が組織の心理的安全性を下げる

          

マイクロアグレッションの難しいポイントが、多くの場合、言った本人に悪気がないこと。だから、その場で注意すべきかどうか、判断が難しかったりもするわけです。私自身、自分がゲイであることを知人にカミングアウトした時に「ゲイに偏見はないけど、俺のことは襲わないでね」と言われたことがあり、ガクッとなった経験があります。異性愛者の方が、異性であれば全ての方に好意を持つわけではないように、男性であればだれでも好きになるわけではありません。こうした言葉も「ゲイの人は同性であれば、誰かれ構わず積極的」という偏見に基づいた言葉ですよね。

同様にそこまで親しくない人から「星くん、ゲイって噂あるけど本当?」と聞かれることもあるのですが、これも実は当事者的にはしんどい部分がある。

イエスと答えようにも、自分のタイミングでカミングアウトできないもどかしさがあるし、「周囲に広められてしまうかも......」と不安を持つ人も中にはいるかもしれない。逆にノーと答えたなら、別に悪いことではないのに、自分自身を否定してしまったような罪悪感を抱いてしまうかもしれない。

ですから、みなさんの周囲で「もしかしたらLGBTQ+の当事者かも」と思う人がいたら、それを茶化したり、暴いたりするような質問をするのではなく、その人が安心して「いつでもカミングアウトしていいんだ」と思えるような"ウェルカミングアウト(Welcoming out)"な環境をつくっていって欲しいのです。

思い込みや偏見、アンコンシャス・バイアスは誰もが持っているものです。脳の仕組みとしてあって仕方のないものだと科学的にも裏付けられています。だから、みなさんにも、当然私にもそれはある。大切なのはアンコンシャス・バイアスを悪いものと捉えるのではなく、「きっと自分にもあるものだから、指摘された時は直していこう」という心構えを持ち、気になることがあったらお互いに指摘し合えるような関係づくりをしていくことです。チームビルディングを行う上でも、非常に重要なことなのではないのでしょうか。

何か一つ行動を変えることが、未来を変える第一歩につながる

ダイバーシティ&インクルージョン

          

─東京センチュリーもまたダイバーシティ&インクルージョンの推進の途上にあります。企業としてこれからどのようにダイバーシティ&インクルージョンに向き合い、その重要性を浸透させていけばよいか、何かヒントをいただければ幸いです。

東京センチュリーは、取り組んでいる事業そのものが社会課題解決、サステナブルな世の中をつくっていくことに直結している企業だと私は強く感じています。これから先の数十年、想像もできないようなさまざまな社会課題が表出してくると思うのですが、それをビジネスとして、持続可能な形で解決できるのが東京センチュリーなのではないか、という期待もあります。

その上で、ダイバーシティ&インクルージョンがどのような意味を持つのか?

私がよく参照するのがリチャード・フロリダという社会学者が書いた『クリエイティブ資本論』という本です。2000年代に発表されて、世界的に大きな話題にもなりました。この本は、都市経済学の視点から、人間の創造性を引き出すためにどのようなことが必要なのかを分析した本で、特に経済成長が盛んな地域には「クリエイティブ・クラス」という新しい価値を生み出す人々が集まっていることが述べられています。

これに関連して、企業や組織、コミュニティが成長するために重要な「3つのT」というものが本のなかで挙げられています。それは以下のようなものです。

1. Talents(才能)
2. Technology(技術)
3. Tolerance(寛容性)

才能・技術・寛容性

          

なかでも3つ目のTolerance(寛容性)は非常に重要で、つまり、これはインクルージョンを意味しているわけです。これら3つのTを備えている地域としてシアトルやサンフランシスコといった都市が挙げられています。こういった都市は実際にゲイの住民が多く、移民を積極的に受け入れていたデータもある。GAFAなどの巨大企業が生まれたのも、ここで挙げられている都市の周辺ですよね。

こうした事実からも企業の成長、ひいては社会課題の解決に企業として取り組む上で、Tolerance(寛容性)、インクルージョンが根本的な部分で非常に重要なことがわかります。そのことを社員のみなさん一人ひとりが意識できれば、会社としてもさらに大きく成長していけるのではないのでしょうか。

とはいえ、何も難しいことをやる必要はありません。今日から何か行動を一つ変えてみる。そんな小さなスタートで良いのです。例えば、同僚との会話のなかで「彼氏/彼女いるの?」という質問を「パートナーはいるの?」という聞き方に変えてみる。女性だから"ちゃん"、男性だから "くん"と無条件に呼ぶのではなく、さん付けで統一するとか、一言「◯◯ちゃん/くんって呼んでいい?」と聞いてみる。そういった丁寧なコミュニケーションを挟むだけで、より多くの人が働きやすい環境に変わっていくのではないのでしょうか。

大切なのは、一歩でも行動を変えてみること。そのことが次の10年、20年を共に変えていく第一歩になると思いますので、このウェビナーが終わった後から、私もまたみなさんと同じ仲間として、一緒に歩んで行けたらうれしいです。

星 賢人(ほし・けんと)

1993年生まれ。22才で東京大学大学院在学中に起業。自身の背景からLGBT向けの求人サイト「株式会社JobRainbow」を立上げ、5年で月間65万ユーザーを達成。LGBTのキャリアスクールの運営、年100社以上へのLGBT研修やコンサルなども精力的に行っている。

※記事の内容、肩書などは掲載当時のものです

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